東アジア美術研究室の沿革

 東洋文化研究所東アジア美術部門の前身は、東方文化学院の美術考古学部である。東方文化学院は昭和4年(1929)4月、外務省の対華文化事業の一環として、中国文化に関する学術研究の目的で設立された機関で、昭和13年(1938)3月、東京と京都に分離独立、東京研究所の研究部門の一つに美術考古部があった。初代教授である米澤嘉圃は昭和10年(1935)東方文化学院の助手となり、昭和13年には同研究員。敗戦を機に文化学院が東京大学東洋文化研究所に吸収された昭和23年(1948)、東洋文化研究所の研究員となる。その翌年、東洋文化研究所は6部門として再構成された際、米澤が美術史・考古学部門の教授に就任した(昭和42年退官)。これ以後、現在に至るまで半世紀以上に亘って、本研究室では資料収集・研究を継続的に行っており、日本における中国絵画研究の一中心を担ってきている。昭和45年(1970)・48年(1973)に出版した『宋元仏画・就中羅漢図・十王図の研究第一次報告書1・2』はその最初の成果といえよう。

第2代教授の鈴木敬は昭和19年(1944)東京帝国大学文学部美術史学科卒業後、昭和24年(1949)国立博物館調査員、昭和27年(1952)文化財保護委員会美術工芸課、昭和34年(1959)東京藝術大学助教授を経て、昭和40年(1965)より助教授として赴任。昭和42年(1967)教授に昇任(昭和56年(1981)退官)。

第3代の戸田禎佑は昭和37年(1962)東京大学大学院人文科学研究科美学美術史学博士課程中退後、東京国立文化財研究所美術部資料室員を経て、昭和46年(1971)より専任講師として赴任。翌年、助教授。昭和57年(1982)教授に昇任(平成7年(1999)退官)。

かねてより中国絵画研究の学的な基盤形成に当たって、アーカイヴの必要を感じていた鈴木は、戸田(当時助教授)、嶋田英誠助手(昭和50年~54年在任 現・跡見女子大学教授)と共に調査団を組織し、

    昭和50年(1975)アメリカ・カナダ調査

    昭和52年(1977)東南アジア東南アジア各地の公私のコレクションの調査

    昭和54年(1979)ヨーロッパ調査

と世界的な規模で悉皆調査を展開。その成果を図版入りの目録の形で『中国絵画総合図録』正編(東京大学出版会 全5巻)として出版・公表した。その形態に倣って中国大陸における『中国古代書画図目』(文物出版社 全24巻)や台湾の『故宮書画図録』(台北故宮博物院 刊行中)が出版されたことを鑑みても、それが斯学における学的なコンセンサスの確立に大きく貢献したことは明らかである。

美術に特化した東アジア美術部門ができたのは昭和56年(1981)4月、本研究所が大部門制に移行するのに際して、東アジア第1と第2部門に分割され、第2部門に美術研究分野が設けられた。

第4代の小川裕充は昭和54年(1979)本研究所助手(~昭和57年(1982)在任)。昭和62年(1987)東北大学文学部より助教授として赴任。平成4年(1992)教授に昇任。

戸田は、第1次調査の際に学生として参加した小川、当時助手であった林秀薇(平成2年~7年在任)と共に第2次調査団を組織。

    平成2年(1990)ヨーロッパ調査

    平成3年(1991)アジア(台湾・香港および韓国)調査

    平成4年(1992)アメリカ・カナダ調査

再び世界的な規模での悉皆調査を行い、正編の補訂、拡充を行った。その成果は『中国絵画総合図録』続編(東京大学出版会 全4巻)として公表されている。この時点で東アジア美術研究室の中国絵画写真アーカイヴに保管される写真は20万点に及んでおり、世界随一のものとなった。

平成11年(1999)、附属東洋学文献センターが改組され、文献部門と造形部門からなる東洋学研究情報センターとして発足した。同時に板倉聖哲が大和文華館学芸部より本センター助教授として赴任(現・准教授)。写真からデジタル・イメージへの移行を図る中国絵画デジタル・アーカイヴ・プロジェクトを開始した。

小川は、平成17〜20年度(2005〜2008)、附属東洋学研究情報センター長を務め、さらに、『中国絵画総合図録』三編の出版を目指して、平成19年(2007)には文部科学省科学研究費の基盤研究(S)「美術に即した文化的・国家的自己同一性の追求・形成の研究−全アジアから全世界へ」を受け、第3次調査を進行中である。近年実施した海外調査は以下の通り。

     平成17年(2005)オーストラリア調査

     平成18年(2006)第一次台湾・香港調査

     平成19年(2007)第一次アメリカ・カナダ調査

     平成20年(2008)第一次欧州調査

     平成21年(2009)第二次欧米調査(予定)



歴代教授略歴および主要業績

1 故・米沢嘉圃 名誉教授

2 故・鈴木敬 名誉教授

3 戸田禎佑 名誉教授

4 小川裕充 名誉教授